本編での収録を終えて麻斗は楽屋に戻ろうとすると、違う収録現場から出て来た、一人の少年とばったり会った。
別に彼の風貌が可笑しかっただとか醜かったとかではなく、寧ろ美しいほうで、まるで自分の両親の顔を足して2で割ったような顔だったのだ。
うんざりして顔をしかめていると、彼の視線に少年が気付き、麻斗を見、ふふ、と小さく笑った。
「どうしたんだい?僕の顔に何かついているのかな?……あぁ、君が紫垣麻斗君だね。シンデレラ役の際、女装したとか」
「な、な、な、何でお前が知ってるんだよ?!違う作品のキャラのくせに!」
「俺が教えた」
ようやく収録現場から戻って来た聖が、小さく、だがよく通る声で言う。
呆然としている麻斗の前で、少年・ルフェイルはにこりと笑い、聖と握手した。
「聖君とは文通仲間なんだ。だからいろいろ教えてもらっているんだよ。お久しぶり」
「お久しぶりです。俺も貴方にいろいろ聞かせてもらっていますから、それは構いませんので」
次いで、ルフェイルは麻斗に笑いかける。
「君のこともいろいろ聞いているよ。女装のことや、両親のことでいろいろ悩んでいることも」
「聖ぃー!人の個人情報を他人にバラすなー!!」
「別に、もう個人情報というレベルではないだろう。周知の事実だ」
麻斗が怯んだところへ、ルフェイルは追い撃ちをかけるように、ポケットからそれを取り出し、麻斗に見えるよう掲げた。
「シンデレラのDVDも聖君に見せてもらったんだ。随分面白かったよ。これがシンデレラの日常姿だと思うと、何だか笑えるよね」
微笑みながら言う彼に、一般人なら聖とルフェイルは同類だとここで気付いたはずだが、麻斗は気付かない。
後ろの『
変人五重奏』収録現場から、綺や夢野が出てくる。
麻斗はルフェイルに指を突き付けて、言った。
「何でお前はオレの情報を知ってるのに、オレはお前の情報を知らねーんだ!理不尽じゃねーか!」
「俺は知っている」
「んなこたーわかっとるわー!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた二人の声に(騒いでいるのは麻斗だけだが)、ルフェイルの頭に隠れるように寝ていたリーヤは不機嫌そうに顔を出す。
『…ちっ。五月蝿い奴らだ』
「まぁ、元気があっていいことなんじゃないかな―――って、リヴァイン、喋らないほうが良かったんじゃ…」
と言って夢野を見遣ったが、遅かった。
「喋る……猫さん♡」
きゅん、と高鳴る胸を押さえて、夢野は呟く。
強いときめき。そう、あれこそが―――
「私の捜し求めていた童話の集大成だぁ♡」
夢野は眼を爛々と光らせて言った。
リーヤは身の危険を察知して、ルフェイルの肩からするりと降りる。
「猫さん待ってぇー♡」
『猫さんじゃねぇ!リヴァインシュテイツベルクだー!』
リーヤは叫びながら逃げ、夢野は頬を朱に染めて目には見えぬハートを撒き散らしながら追い掛ける。
そんなさなかに、『
闇夜のディテール』収録現場からイリアが出て来た。
見知らぬ人に追い掛けられているリーヤを不思議そうに見ながら、ルフェイルの元へと近付く。
そこでも見知らぬ人に出会って、きょとん、としたあと、イリアはルフェイルの袖を引っ張って聞いた。
「ねぇ、ルー。この人達だあれ?」
「んー、そうだねぇ…。吹っ飛びメルヘンさんと暗黒大魔王と隠れマッチョさんとヘタレ女装さん、ていうところかな?」
「??」
なおわからなくなったようである。
麻斗はルフェイルの言葉に、怒鳴り返す。
「つーかンだよその呼び方は!勝手に人をあだ名で呼ぶなー!」
「あれ?僕はただ、聖君に教えてもらった通りに言っただけだけど?」
「何ー?!」
すかさず、聖が口を挟む。
「どうもこうもない。ただ事実を有りのままに述べただけだ」
麻斗君と聖君の会話はは本当にマシンガントークだなあ、と考えていると、麻斗の矛先は再びルフェイルに戻って来た。
「大体さっきから何なんだてめーは!会ったなり人を女装だとかヘタレだとか言いやがって!だったらお前も女装してみろってんだ!」
「僕から見れば、劇が終わってもう大分経つのにまだ悩んでいる君のほうがおかしいと思う。君の発言でくじ引きになって、シンデレラが当たってしまったんだから、いい加減諦めるとか、腹を決めるとかすればいいと思うんだ。それに、女装は今までやったことないからよくわからないし、あんまりやりたくはないけれど、そこまで拒みはしないかな。決まってしまったものは、やるしかないからね」
立て続けに正論を述べられて、麻斗はぐうの音も出ない。
そうこうしている間に、『
闇夜のディテール』収録現場からガイが出て来た。
「うぉおい小僧―――って、ンだぁ?餓鬼ばっかりじゃねぇか」
「餓鬼じゃなくて、『
変人五重奏』の人達だよ」
「あぁ、んなのいたなぁ。すっかり忘れてたぜがははははは!」
ガイは豪快に笑うと、ふと、綺が自分を見ていることに気が付く。
「うぉ?どうかしたかぁ?」
「…す…」
麻斗と聖は、綺の言いかけた言葉に反応した。
「「す?」」
「すごい筋肉ですねっ」
”そっちかー!”
眼を輝かせて言う綺に、麻斗が心の中で突っ込んだことは誰も知らない。
ガイは腰に手をあて胸を張って、嬉しそうに答えた。
「だろだろ?いーぜいーぜ、いろんなことに興味を持つことはいいことだ!こうゆう風になる秘訣はなぁ…」
それを見た聖が呟く。
「ちぐはぐなマッチョ同士の会話だな」
「…つーか何で綺はあんなに体に興味があるんだ―――」
「あら、麻斗!こんなところで会えるなんて偶然ねぇ」
『
変人五重奏』の収録現場から、綺母が出て来た。
「にしても、ここで何してるの―――って、あらっ♪」
綺母はルフェイルの顔を見た瞬間、顔色が変わる。
「あなた綺麗な顔ねぇ♪いいわぁ、いいわぁ♪ねぇねぇ、今からうちに来てくれないかしら?そして、着せ替えさせてもらってもいいかしら?」
ルフェイルは僅かに眉を顰めたが、すぐに笑って承諾した。
「あんまり好きじゃありませんが、そこまで言うならいいでしょう。…麻斗君も、勿論来るよね?」
こそこそと逃げ出そうとしていた麻斗の体が、ぎくりと固まる。
「い、いや、オレは―――」
「嫌だな、まだ女装のことで悩んでいるのかい?女々しいなあ。もう少し男らしく生きてみたら?」
その言葉で、麻斗の頭の中の何かのスイッチが入った。
「うっし、んじゃやってやろーじゃねーか!」
「わぁ、男らしいー」
ルフェイルはにっこりと笑って、小さく拍手する。
「イリアも行くー」
「それなら、俺も行く(楽しそうだし)」
「来るなー!!」
麻斗の絶叫が虚しく響いた。
<完>
***どうでもいいあとがき***
この話の個人的副題は、「ルフェイル君の”言葉で巧みに!麻斗矯正計画”」でした♪