イリアの後ろ姿が消え去ると、黒猫がルフェイルの頭のほうへと近寄ってきて座った。
もちろん、リーヤである。
『ふん。こうしてみると貴様は阿呆だな』
『うるさいなぁ。好きでこうなってるわけじゃないんだけれども。それに、この傷を作ったのは君だろう?よくそんな大口を叩けるものだね』
ルフェイルはにっこりと笑った。目は明らかに笑っていなかったが。
リーヤは目をあらぬ方向に逸らし、冷や汗を流して呟くように言った。
『そ、それはー…そうする、方法しか…』
『だからって、陶器で頭を殴って失神させることはないんじゃないかい?しかも何度も。あの時はひどい痛みだったよ。いくら僕の体の制御が効かなくて暴れていたからとはいえ、他に方法はあっただろうに』
リーヤは何も喋らず、ただただ冷や汗を流すばかり。
しばらくして、もう反論は出来ないと思ったのか、足音を立てないようにそそくさと立ち上がり、去ろうとした。
何だか腹が立ったので、尻尾を引っ張りこちらに引き寄せると、数本の太めの人参を無理矢理突っ込んだ。
こてんと仰向けにリーヤは倒れ、苦しいようでもがくように手足をばたばたさせる。
これぐらいがちょうどいい。まだ少しやり足りないが。
すっきりしたルフェイルはリーヤから目を離して、空を眺める。
ポケットをあさり、中から取り出したのはネックレス。
手の平の半分くらいの大きさで、凹凸がところどころにあり、いびつな形だが綺麗に磨かれかくばったところのない、水晶のようなもの。それに穴をあけてチェーンを通しただけという質素なつくりだ。
彼にとって重要なのは、ネックレス自体ではなく、この水晶のようなものだ。
これの元の名は、”宝石”。
しかし今は全ての効力をなくし、ただのがらくたと化している。
これは、リーヤがルフェイルを半強制的にでも生きさせようと、ほとんど魔王化していた体を魔物にした際、出て来たものだ。
魔王の体を魔物にすることは、理論的に可能だった。実際、魔王をやめたものは魔物へと還っている。
しかし、それは自然に行われたもので、魔王の力でやることなど前代未聞だ。
一か八かの賭け。でも、それしか方法がないのだから、やるしかなかった。
賭けは成功した。が、それからが問題だったのだ。
無理矢理に体を変えてしまったのでリバウンドがとてもひどく、体が自分の意志とは関係なく動き、ついには暴れるようになってしまった。しかも、いつも暴れているわけではなく、発作のように時間の間隔を空けて起きるから、なおやりにくい。
リーヤいわく、人間であるルフェイルの心が魔物の細胞と上手く同調出来ていないかららしい。
何とか体を思い通りに動かせるよう奮闘したが、やっと同調したのは最近のことで、この前など大暴れをしてしまった。
ちなみに、頭の傷はその時やられたものだ。細かいくだりは先程の会話でだいたいわかるだろう。
”宝石”だったものを空に掲げて、陽光に当てる。
陽光が反射して、きらりと煌めいた。
これが原型を保っていられるのは、何年経っても崩れないよう魔法をかけているからだ。
これを見る度に、自分が人間だった頃、そして人間と魔族の狭間にあった頃を思い出す。
たとえ何百年経ったとしても、今までのことを忘れないようにしなくてはいけない。
シャルネットやウィーゼンのことを覚えているのは、もう自分しかいないのだから。
ネックレスをポケットに仕舞い、瞑目する。
ルフェイルの体が魔物になってしばらくした後、リーヤは梅蘭と共に政務を手伝うように言われた。何でも、信頼出来る人物がほかにいないからだそうだ。
梅蘭はルフェイルより遥かに魔界のことを知っているので、書類処理やリーヤの手伝い、ルフェイルは魔物全員を監視し、何か奇妙な動きがあったらリーヤに知らせる役となった。確かにそれならばそれぞれの個性を活かしているだろう。それらとリハビリを同時に行っていたために、7年もかかってしまったのだが。
ちなみに、梅蘭は今魔界におり、事務に追われているが、終わり次第こちらに来るだろう。
またアムリースは、傷は治ったものの意識は回復していないという。だが、シャウレイズとリアリゼの懸命な看病があるゆえ、いずれは回復するだろう。
リーヤも気になるならそんなに自ら行けばいいのに、魔法で作った使い魔を送って毎日見ている。素直になれないやつだ。
また、ルフェイルは魔法が再び使えるようになった。
魔物としての魔力を手に入れたから、というのもあるが、こんなにもらっても俺様は何も返せない、とリーヤに契約の際渡した魔力の一部を返された。一部とは言ってもかなり多くのものだ。
膨大な魔力に、人間の魔法も使える―――恐らく、魔法に関してルフェイルの右に出るものはいないだろう。
『ねぇ、リヴァイン』
かさりと草の音がする。目を閉じたままだったので実際どうだったかはわからないが、こちらを向いた気がした。
『僕は、やりたかったこと全てが終わったら、死のうと思っていた。生きることにもう飽きていたし、死んだらシャルネットやウィーゼンや他の皆に会えるのかな、とも考えていた』
リーヤは黙ったまま、何も答えない。
目をゆっくりと開けて、手を目の前まで持ってきて、握る。
『でもこうして、生きてしまった。自分の一番嫌いな、シャルネット達を虐殺した魔族の一員となって』
暴れる自分を抑えながら、数え切れない程自分なんか死んでしまえばいいと思った。
下唇を強く噛むと、鈍い音を立てて歯が唇に食い込む。
血の味がした。
『…でも』
力の込めた手をゆっくりと開く。
遠くのほうから、ガイや他の人の騒ぐ声が聞こえてきた。
恐らく、イリアが自分達がいることを話して、ガイ達を連れてきたのだろう。
『あの時君に叱咤されて、ふと思ったんだ。それはただの独りよがりじゃないのか、ってね。自分のしたことに満足感に浸りながら、周りの人の気持ちも考えずに彼等の後を追おうとして。
それが本当なのか嘘なのか、僕にはわからない。けれども―――』
先程のイリアの顔。
泣いていたけれど、とても嬉しそうだった。
あんな顔をされるとは思わなかった。
こんな自分が生きていることを、こんなにも喜んでくれる人がいるなんて、夢にも思っていなかった。
『初めて、生きてて良かったな、て思えたよ。ありがとう、リヴァイン』
ルフェイルは心底幸せそうな顔で、ほころぶようにはにかんだ。
<了>
***あとがき***
お、お わ っ た !!
言いたいことは山ほどあるんですか、感無量過ぎて何も語れませぬ!
あとこの後、ギャグを続けようかなーと思ってたんですが……↑、続けていいんですか?!いや、めちゃくちゃダメな気がもりもりと!!
これで全部で61個?かな。あやふやだけど。
61個なんて、気持ち悪過ぎて想像もつかんですねアハハハハハハ!!(壊)
この話をやった企画は、自分の気に入る主人公を、そして作品を書こうといったものでした。
気に入る作品というのは、具体的に言うと私がずっと買い続けたくなるようなモノ。
私はマンガでもアニメでも
小説でも、ちょっと飽きるともう買わないので。そんな自分がずっと買いたくなるくらい面白いやつ!と思って書きました。でも、自分が書ける程度なら買いませんよねー。それさっき気付いた(遅ッ)
平たく言えば、自己満足作品だったわけで。面白くもなかったと感じた人もいるはずですが、こんなものにこんなに長々とお付き合い頂き、ありがとうございましたー!(結局語ってるじゃないですか)
ではー!!