授業中、麻斗は両親がいるということで、早弁せず居眠りせず、いつもよりずっと真面目に受けた。
けれど真面目にやりすぎるのも気持ち悪いので、適度に物思いに耽ったり、内職をしたりした。
もちろんこの時の麻斗は、しばらくした後、その気持ち悪いことを至極真面目にする羽目になるとは夢にも思わない。
授業も終わり、放課後、陽菜は教室の後ろで綺・麻斗・聖・夢野の親に混じって話していた。
楕円状になって話す保護者達の顔を順々に見回しながら、先程言われたプロフィールを脳裏に巡らす。
(ええっと…この人が高菜君のお母さんで、職業はー…弁護士っと)
「うちの子がいつもお世話になってます。あの子、物言いがきつくて。迷惑をかけていませんか?」
短髪で眼鏡をかけ、きつそうな顔付きだ。しかしその瞳には理知的なものを秘めている。もし理詰めで糾弾されたら絶対勝てないだろう、と陽菜は妙に確信した。
残り期間は少ないが、敵に回さないようにしなくては。
あと、社会人の長女もいると言っていた。聖とその母親がどこと無く似ているのだから、長女もこんな感じなのだろうか。
(で、こっちが柊さんのお母さん。お祖父さんが牧場経営だとか何とか)
「いえいえ全然ですよぉ〜。聖君頭良くって、いつも助かってると夢野言ってますもん。ありがとうございますぅ〜」
セミロングの焦げ茶色の髪で、童顔なのか、可愛らしい顔立ちだ。
手をはたはたさせながら言うその雰囲気は、夢野に似ているが、夢野のほうが圧縮された感じがするのは気のせいだろうか。
いえいえ、そんなことは、と聖母は否定する。
(で、璃蓮さんのお母さん。ビルを一軒持っていて、賃貸しているとか)
「うふふ♪それを言ったら、夢野ちゃんとても優しいじゃない♪うちの子なんか、変な趣味持ってて」
綺母は口元に手を押さえて笑った。
その横にいた人が反論を上げる。
(で、この人が―――)
「あぁら、あの趣味あたし気に入ってるのよ♪いいと思いませんか、先生?」
麻斗父にいきなり聞かれて、陽菜はどもりながら答える。
「あ、は、はい」
そんな5人の会話を、彼らの子供達は取り巻きとなって見ていた。
夢野は両手を胸の前で組み、目を輝かせる。
「皆いろんな職業持っててすごいけどぉ、やっぱり一番憧れるのは紫垣君の両親さんだよねぇ〓」
「確かにね。モデルだし」
綺が同意するのを聞きながら、麻斗はうんざりして溜息をついた。
「あの何処がいーんだあの何処が」
小さく呟いた声を耳聡く聞いて、聖は答える。
「あの中で一番儲けているのもあるんじゃないか?アメリカでも有名だろう」
「まーそーかもしんねーけどよー」
麻斗が嫌そうな顔で棒読みしていると、麻斗父がくるりと振り向いたので思わず身を引いた。
「そうそう、麻ちゃん〓さっき話したいことがあるって言ったじゃない?」
「んあ、言ってたな」
麻斗は頷く。
「実は、次の大きな仕事はドラマでね、日本が舞台なんですって。だからあたし達、来年から麻ちゃんと一緒に住むの〓楽しみだわぁ〓」
麻斗は頭の中が真っ白になって、目が点になった。
自分の、平穏な、日々がついに―――。
そんな麻斗に気付いているのか気付いていないのか、麻斗父は追い撃ちをかけるように言う。
「それでね、もう一人、あたし達と一緒に住むことになったの〓……入っていいわよー!」
麻斗父は教室の外に向かって叫んだ。
すると、ドアが勢いよく開いて、それは目にも留まらぬ速さで麻斗に飛び掛かる。
押し倒された麻斗はそれを引きはがそうと顔を見て、固まった。
それは、懐かしきあのウッホウッホだった。
麻斗は目を飛び出さんばかりに見開いて、パニック状態に陥る。
「う、ぎゃ、え、あ、な、なな何でこいつがこんなとこにいんだよ?!」
「その子、あたしの使用人の子なの〓この前、その使用人に休暇を与えたら、日本に行ってくるって言うじゃぁない。で、帰って来た後、何して来たの、て聞いたら、その子がある学校の劇に参加したんだ、て。まさかその学校が麻ちゃんの学校だと思わなかったわ〜♪あたし、DVD見た時びっくりしちゃって、麻ちゃんに言えなかったのよ〜」
いや、嘘だ。絶対こういう機会を待っていたに違いない。
頬を擦り寄せてくるウッホウッホに寒気を感じながら、聖に大声で聞いた。
「シンデレラ劇に入れさせたのも、こういうのを知っててやったのか、聖!!」
聖は麻斗を見下げて言う。
「なわけないだろう、このバカ。その時は麻斗のご両親と知り合ってもいない。
駅前で劇のチラシを配っていたら、寄って来て、劇にどうしても出たいと筆談で言ってきた。ちょうど、御者の役がいなかったし、やってもらった」
麻斗父はその言葉に嬉しそうに、手を合わせて頬に寄せた。
「すごい偶然よねぇ〓きっと麻ちゃんに一目ぼれしたんだわぁ」
「ひ、ヒトメボレ…?」
「そうよ麻ちゃん。その子女の子なんだなら、こいつとか呼んじゃダメよ!」
麻斗は改めてウッホウッホの顔を見る。
この、自分を熱っぽい視線で、赤ら顔で見てくるやつが女だという。
まさか。信じられない。何処からどう見たって男だ。
麻斗父は続ける。
「で、もしその子と麻ちゃんが結婚することになったら、あたし達みたいないい夫婦になるのね〓麻ちゃん、付き合っちゃいなさいよー♪」
麻斗はウッホウッホを引きはがして、立ち上がって麻斗父に指を突き付けた。
「ざけんな!オレは真っ当に生きる!誰がてめぇらみたいなカ―――」
マ夫婦、と言う前に、麻斗の頬にいつの間にか近づいていた麻斗父の拳がめりこむ。そのまま黒板まで吹っ飛ばされた。
地面に倒れた麻斗は動かない。どうやら衝撃で失神したようだ。
麻斗父は公衆の面前というのもあって、ころっといつもの表情に戻った。
「やっだぁ麻ちゃん〓変なこと言うから、思わず手が出ちゃったじゃなぁい♪」
綺と夢野は呆然とし、聖は小さく息を吐く。
陽菜は、もしかしたら、怒らせたら一番怖いのはこの人かもしれない、と心の隅で思った。
<完>
***あとがき***
かなり親の会話で詰まりましたが、それを抜けたら一気にいけました。だから前半は読みにくいかもしれません。
ウッホウッホ。久しぶりです!再登場させたのは、友達と話していて思い出したから。また出したら面白いかなー、と思ってやりました。
陽菜の話だったはずなのに、あまり出なくてマジすみません…。麻斗父はすごい存在感ですね!麻斗母は出ませんでしたが、きっと後ろのほうでニヤニヤ笑っていたでしょう(笑)
この小説は(作者の頭の中では)行間でも皆いろいろしていたりして、まあ書いていないのは書いたらキリがないからなんですが、絶対マンガのほうが読みやすかったと思います!そのほうが皆がしていることを表せる…。
ちなみに私は無理です絶対。画力が圧倒的に足りない…。
本編もこれも終わったということで、一息つけそうです。
これを書き始めたのは中2の二学期の終業式で、ここまで随分長い時間がかかりました。その分、キャラのことは普通以上によくわかったような気がします。
では、ここまで読んでいただきありがとうございました!
特に、このリクをくれたむっさん!モデルにもなってくれて、本当にありがとう!