これは、某賞に応募して、見事落選したお話です。どうせ更新するものもないし、ということで引っ張り出してきました。
内容としては恋愛モノなんですが、BLではありませんのであしからず。少なくとも私はそういう気持ちで書いたつもりは毛頭ありませんし、また読んで欲しくもない。
ま、そんなものでよければ、追記からどうぞw
ホームでごった返す人々の喧騒。加えて横を通り過ぎる電車の音。声を張り上げなければ、隣にいる相手に自分の声は届かないだろう。ましてや離れたところにいる人物には。
「おい!悠(ユウ)!悠ってば!!」
何度か大声で呼んで、やっと悠は振り返った。やれやれと息を吐き苦笑する。
「だからそんなに心配しなくても大丈夫だって。親と話して許可もらったら、こっちに戻ってきてさっさとやるだけだし」
俺は下唇を噛んで吐き出すように言った。
「別に言わなくても、今じゃなくてもいいことだろッ?!俺は、俺は…」
お前と離れるのが嫌なんだ―――。
引き止めようと悠の手首を強く掴み、目をつぶって俯いていると、悠が優しく手を撫でてきた。顔を上げると、悠はやんわりと微笑んで俺の目をまっすぐ見た。
「大丈夫。炯(ケイ)は強いから。こんなちぐはぐな私の想いを受け止めてくれたんだもの。それに炯との子供、欲しいから」
その言葉にいろんなものが溢れそうになって。でもそんな自分を見られたくなくて、悠の首筋に顔を埋めるように抱きつく。
悠の体は驚いたように強張ったが、柔らかく抱き返してくれた。顎が肩の上に乗り、優しく背中を撫でられた。
周りの人の視線を感じる。そんなに男同士で抱き合う俺達が面白いか?悠に障害があることを、心と体が異性の関係にあるのがどれだけ苦しいのか知らないのに、よくそんな目が出来るものだ。見たければ勝手に見てろ。
俺は鼻先を肩に押し付けて、囁く。
「何があっても―――絶対、絶対戻ってこいよ」
「……うん」
悠がどんな顔をして言ったか見えなかったが、幸せそうに笑った気がした。
再び電車の音。その速度は次第に弱まり、止まった。ドアが開く。悠から手を離す。
「じゃあ」
悠が電車に乗るとドアは閉まり、故郷へと連れ去った。
2週間後、悠は戻ってきた。慣れない上恥ずかしいのか、もじもじしながらこっちを見てくる。似合うよと笑うと嬉しそうに飛び付いてきた。悠のスカートが空に舞った。
こうして性同一性障害というしがらみを解いて、俺達は再び結ばれた。
誰にも邪魔されない、しっかりとした絆で結ばれた恋人になって―――。